勝手な電子工作・・

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自作器テストのための身近な放射線源8種

この記事では身近で揃えやすいテスト用線源の例を簡単にご紹介することにします。

自作ガイガーカウンターガンマ線スペクトロメーターなどの調整に、適切な線源が欠かせません。ご存じの方も多いかと思いますが、カリウム40、セシウム137/134、ウラン235、トリウムなどの線源は比較的身近なところにあり入手しやすいものです。

実は、このブログへ新たな記事を1か月載せなかったら自動催促(?)メールが来たため、何か載せておこうと思います。そういえばだいぶ前に「線源についてそのうちに載せる」と書いたかと思います。

これですとすぐ書けそうなので、慌てて写真を撮り以下に勝手な説明をさせていただきます。もしも間違いなどがありましたらどなたでもご指摘をよろしくお願いします。

 

カリウム40(40K(数値ミスを訂正させていただきました:2019年6月14日)

カリウムには放射性同位体カリウム40(40K)が0.0117%含まれていますから、カリウムを含むものは40K線源として使えます。主に強いベータ線(最大1.3MeVぐらい)を出しますが、ガンマ線源としてエネルギー・レベル(1,461KeV)の校正にも役立ちます。例えば味の素の「やさしお」は入手が容易です。

  • やさしお 

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成分表示で27.6%(1Kgあたり276g)がカリウムなので、勝手に次のような計算をすると1Kgあたり8,717Bqの放射能を含むことがわかります(有効数字は3桁ですが)。

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カリウム放射能計算(細かな間違いを修正しました:2019年6月14日)

放射されるのは約9割がβ線、約1割がガンマ線ですが、エネルギーの高いβ線GM管壁も通過しやすく敏感に検知されます。 

 

 ・炭酸カリウム

やさしおよりもカリウムを多く含む物質は食品用(例えば中華麺のかん水に使われる)などの炭酸カリウムで、購入も容易です。K2CO3のカリウム含有量は化学式上56.6%なので、不純物のない炭酸カリウム放射能は17,876Bq/Kgになります(有効数字3桁)。つまり、やさしおの2倍以上濃い40K線源なので、使い勝手がよいわけです。 食品用の炭酸カリウムはアマゾンなどでも販売されています。

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次にセシウム137Csと134Csです。これは関東なら土壌放射能マップなどを参照して、値が高いところを測ってみてから土壌を採取すると簡単に得られると思います。

  • 土壌(某所)

次の写真の土は2012年に県外某所で採取しましたが、当初は400 gほどでした。スペクトロメーターの調整(662KeV)などに使っています。

比較的エネルギーの高いβ線(多くが最大514KeV)も放出していますので管壁が薄めのガイガーカウンターの点検にも使えます。

この採取した土はその後年月が経ちビニール袋を通して乾燥が進みました。そのため今では重量が採取時の半分ほどになりました。半減期が長いセシウム137はあまり減らず、その乾燥で逆に濃縮されました。

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次にアメリシウム241(241Amについてです。アメリシウム241は強いアルファ線を出しますが、低エネルギーのガンマ線(約60KeVと70KeV)も出すので、ガンマ線スペクトロメーターの校正に使われてきました。

 

 ・イオン化式煙感知器(これだけは現在ではお勧めできません)

日本では2005年の法律で、アメリシウムの使用量がそれまでの370万ベクレル未満から1万ベクレル未満へと制限され、それを超えるものは入手してはいけません。筆者が使用してきたのはそれ以前のイオン化式煙感知器ですが3万ベクレル近くあります。そのため、廃棄時に製造者に送り返すなど厳重な管理が必要で、それができない場合は日本アイソトープ協会へ相談することとなっています(守らないと高額の罰金が科せられます)。

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イオン化式煙感知器ではイオン室へ入った空気に強いアルファ線が照射される構造であるため、これを壊したりするとアメリシウムが環境へ放出される危険があるため、法律に基づいて回収が促されているものです。スペクトロメーターの調整目的に使ってきたものは安全のためにガラス瓶にきっちり収めたまま使いますが、近々適正な処分を予定しています。

 

ここまでにご紹介した40K(γ1,461KeV)、137Cs(γ662KeV)、Am241(γ約60KeVと70KeV)ガンマ線スペクトロメーターの校正に広いエネルギー範囲をカバーできるわけなのですが、イオン化式煙感知器のAm241を使う方策はもはや避けるべきといえましょう。第一、自作器でのセシウムの検知が主目的ならそのような低エネルギーの領域を点検する必要性はあまりないわけです。

241Amの半減期は432.2年ですから当分なくなりません。一般人や趣味の世界では今や入手しないのが良いと考えますがどうでしょうか。ここでは、処分に向けて最後となりそうな筆者の記録だけ紹介しておきます。自作器としてはまだ調整中ではありますが。

 

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上のグラフで、土壌はセシウム137の660KeV付近がピークです。セシウム134の600KeV付近にもピークが少し残っていますが、他にコンプトン散乱ではない別の核種がみえています。グラフの右の方はカウントが少ないので無視してください。

 

次はウラン235(235U)などについてです。ヨーロッパ(とくにチェコスロバキア)では昔からウランガラスが美術品として作られてきました。日本にもありますが、米国ではワセリングラスといわれます。通常は黄色ですが、紫外線で緑に美しく光ります。

  • ウランガラス

筆者が使っているのは次の写真のような小さな玉やビーズの形のもの多数です。これですと量が調節できるので便利です。大きな玉はかつて東急ハンズで購入したのですが、今ではなかなか売っていません。しかしヤフオクなどでは色々出ているようです。

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主にβ線を出しているため、管壁の薄いGM管ではよく検知しますが、ガンマ線の検知は少ないです。自作GMカウンターの比較のためなどに便利に使っています。

 

また、トリウム(228Th、229Th、230Th、231Th、232Th、234Thを含むものは比較的身近にあるので、入手しやすいと思います。GM管などでも簡単に検知されるので比較に便利なのですが、スペクトロメトリーではピークが多数できるため簡単な校正用には使いにくいです。アルファ線も出します。

 

  • アーク溶接棒やアルゴン溶接などの電極棒(原子炉規制法の許容限度内に限ったもの)

放射能が許容範囲のものはホームセンターやモノタロウなどで「トリウム入り溶接棒」として購入できます。トリウムの含有量が表示されています(許容範囲を超えるものは一般に売られていません。調べたところでは「原子炉規制法第61の三により国際規制物資の使用許可を受けなければならない。しかし、法令五十二条第一項の使用の許可を受けたものはこの限りではない。」とされているようです)。

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ランタンの点灯に用いるマントルの一部にはトリウムを含んでいるものがあり広く使われているようです。かなり強いうえ、ハサミで切れるので調節できる線源として便利ですが、トリウムが含まれないものが増えているようです。購入の際に測定器でちょっと測ってから買わないと失敗することがあるでしょう。

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  • トリウムレンズ

1970年かその少し前頃、一眼レフの優秀なレンズの一部に各メーカーで使われていたものです。トリウムが含まれているレンズは次第に黄色に変色しますが、強い紫外線照射(もちろん分解して)で黄色みは取れるようです。

β線もレンズのカメラボディ側から強く出ているので、適当な厚み(例2ミリ)のアルミ板などで遮蔽をするとだいぶ減ります。強いので自作器の点検や比較に使いやすいです。

入手するにはトリウムレンズや使えるレンズとしてではなく、ジャンクとして出ているものが格安で手に入ることがあるようです。写真は筆者がずいぶん昔に使っていたレンズでトリウムを含むものです。

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天然のものと書かれてアマゾンなどでも売られていますが、筆者が購入したものは調べるとγ線スペクトルが他のトリウム含有物と完全に一致するため、とてもそうとは思えませんで、これをラジウムでなくトリウムに分類しました。

トリウムとしては測定には便利なのですが、ビンにつめたままにしないと粉を吸ったりしてたいへん危険だと思います。とくにそのための詰め替えの際はN95マスクなどで十分に防御しないといけないと思います。

 

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以上、簡単ですが身近な線源9種ほどを急いで紹介しました。うち8種は入手可能なものと思います。ご自作器のテストのために何らかのお役に立てば幸いです。

 

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