安定した計数には変動の少ない電源が必要です。ここで解説するガイガーカウンターからのアウトプット例は上のようなものです。上側のグラフは、たくさん出回っているGM管SBM-20を使い、カウント30を得る時間から得たCPM(分あたりカウント数)で室内でさきほど測ったものです。下側のグラフはガンマ線感度の高いSI-22Gを用いて今測ったものです。時間当たりマイクロシーベルトで表示するとどちらも殆ど同じです。CPMからμSv/hへの換算方法は特別な工夫をしていますが、この連載の中に詳しく書く予定です。
設定するカウントが多ければ多いほど精密で安定したデータが得られます。Arduinoへどうプログラミングすると楽であるかも、この連載で紹介したいと思います。
GM管にはプラトー電圧範囲(カウント数への影響が小さい電圧変動範囲でSBM-20ですと100V以上の幅)がありますが、その中で測ると、10Vの変化で1%(仕様にはこの最小値が書かれているようです)から4%程度変動するのがわかります。
ですので、精密なデータを取り出したい場合には、安定した電圧供給が欠かせません。また、ガンマ線を測るときにはβ線の遮蔽(4mm厚のアルミや同質量の樹脂などでOK)が必要です。管壁の薄いGM管はベータ線にとくに敏感です。
ここで説明するのは、GM管へ供給するための高電圧の作り方です。インダクタンスへブロック波を入れる方法をはじめ、過去に色々な方法を試してみた結果、一番簡単にコントロールでき安定した電圧が出せるのはCCFL(冷陰極管)用インバーターを利用することでした。
CCFLインバーターを使えば、整流方法次第で1万ボルト程度までなら安定した高圧を簡単に供給できます。能率が良いので、電圧取出し部分に後で説明するような工夫をすると、少ない電力ですみます。自作もできますが適当なトランスの入手が難しいので既製品が楽。古い液晶ディスプレイを廃棄する際に取り出すのも一法です。小さなディスプレイ用はサイズも小さいですが、大きなものは基板をカットすると小さくできます。上の写真はバンドソーを使ってカットした一例です。これでも十分です。
CCFLインバーターの主な用途は液晶ディスプレイのバックライト用でしたから、今やLEDやバックライト不要のOLEDにとって代わり、殆ど使われなくなりました。そのため、数年前は格安の在庫が山のように出回っていました(下の写真)。現在でも世界中で簡単に入手できます。
どれもほぼ入力は12Vと指定されています(8~12Vと書かれているものもあります)が、実際に試すと、入力部にICのない単純なものは全て1~1.2V程度からきれいに発振します。実験用として5V用のも現在売られています(下の写真はアイテンドーで売られいるもの)。アウトプットのキャパシタ部分をカットすればかなり小さくなります。
一方で、入力部にICが介入しているものは用途に合いにくいです。主にノートPC用などですが、試すと最低2.5V入力しないと発振しませんので、400V程度の電圧の取出しには無駄が出ます。もちろんそれでも使えないことはありませんが。
結局一番小さくて安定しており、使いやすいのは次のインバーターでした。かつて秋月電子でも販売されていましたが、今ではどこからも販売されていません。
電圧可変三端子レギュレーターを使って入力電圧をコントロールすることにより、好きな電圧が出せます。次の回路のようにすると安定して取り出せます。
可変電圧三端子レギュレーターのAdj電圧コントロール部分には、上図のように多回転ポテンショメータだけを使えば、温度補正の必要性がなくなり好都合です。ここにもし抵抗器を混ぜると温度変化の影響を受けてしまいます。
可変電圧三端子レギュレータはLM317Tで十分なのですが、ここでは手持ちの部品数量の関係で低ドロップのLM1117T-Adjを使っています。
電圧取出し部分は図のように倍圧整流回路にしています。CCFLインバーターの出力の内部にはキャパシターがついているので、外付けのキャパシターは1個だけですみますが、数kV耐圧のものを用います。また、ダイオードには1kV以上の耐圧のもの、例えば入手しやすい1N4007を使います。
このようにするとレギュレータの調整で150V~3000V程度が取り出せます。これで長期間にわたり1Vも変動せずに使えるのには驚きます。しかも、インバーターへの必要な入力電圧は僅か1.2V程度なので、電力は僅かですがGMT用としては十分です。ちなみにこの回路を400Vとして使う場合の消費電流は17mAです。この回路のGMT供給電圧はいつ測っても400Vぴったりで安定しています。
このような電圧の測定には1GΩ以上の入力抵抗を持つ電圧計を使わなければなりません。簡単には入手できないので自作するのが適切と思います。上の写真はずいぶん昔に作った1万ボルトまでの電圧計ですが、今でも問題なく使えています。入力抵抗10MΩで0.2ミリボルトに設定したメータの入り口に、1GΩと100KΩ程で分圧をしていたと思います。今ならGMT用に計測用オペアンプで作れば、もっとずっと高い入力抵抗の電圧計が作れると思います。
他のインピーダンスの低い電源の場合、高精度のテスターで600Vまでは測れるので、それを使って自作電圧計のキャリブレーションをします。更に高い電圧の場合は高精度の分圧をすることが必要ですが。
CCCFLインバーターはもともと接続するCCFL(冷陰極管ランプ)との間で全体として共振しやすいように作られているようです。種類によっては電圧に過不足があるかもしれません(8種類試した限りは全て十分でしたが)。もし電圧が足りないときは例えば次のような4倍圧整流回路にすればP点の電圧は4倍になります。
かつては最終的なアウトプット電圧を分圧し、マイコンにフィードバックしてコントロールする方法を考えましたが回路の定数を工夫しないと電圧が少し振動します。そこで、結果的に上記のやりかたにしています。
さて、なぜこのような広範囲の調整ができる電源を使っているかについて書きます。
以下雑談ですので読み飛ばしていただいて構いませんが、最後のほうに回路の若干の変更を記述しますので、そちらだけはみてください。
2011年の一時期にGM管の入手が難しい時期があり、色々なGM管の代替品を工夫し、それに数千ボルトを必要としたため、そのなごりかもしれません。普通のGM管ならさほどの高圧は必要がありませんから、見直す手があるのかもしれません。
余談となりますが、高圧を使った代用品の例を少しだけ書いておきます。
上の例は、双三極GT管のプレート間に電圧をかけて利用したものです。このような使い方でも1500V以上必要でした。GM管としての特性はとても満足できないものですがそれなりに役目を果たしました。次の動画はウランガラス(ワセリングラス、主にβ線を発生)への反応ですが、検出はLEDとサウンダーによる表示で、左の表示値は供給電圧です。
また、次の例は2011年の4月に急きょ作成したものですが、GM管はやむを得ず自作。中にアルゴンガスとブタンガスを詰める方法を工夫しました。感度は良いですがプラトー電圧範囲など満足できません。検出ぎりぎりのところへ電圧を設定することにより、異常な放射線の有無がすぐにわかるという簡素なもの(まるで大昔の再生式並四受信機、だったかな?を連想させます)。例えばバナナのカリウムなどにも敏感に反応します。
このGM管を作るには、食品用真空容器とポンプ、特殊な衣類用アルゴンガスボンベ、ライターのブタンガス、ポリ袋を使いました。検出感度はよくとも安定性は満足できないものですからカウントせず単に検出用としました。
その少し後には高価ながらようやくGM管の入手が海外で容易となり、次のような装置を作りました。今でもまともに動きますが、リアルタイムクロックやSDカードなどはつけない単純で薄く小さなものです。PIC4個で機能を分担し全部アセンブラーで作っています。後でこのサイズのままSDカードへの記録を加え、かさばるLEDをLCDに変更しましたが、紹介するときりがありませんね。
雑談が長引きましたが、次を書こうと考えているうちに、どうせなら手持ちの各種GM管に対応できるようにしておこうと考えて、ふと気づきました。
例えばSI-22Gはガンマ線の感度が高くその用途には最適です。そもそもGM管はガンマ線の検出率は低く、β線は非常に良く検出します。管壁の薄いものは200keV(キロ電子ボルト)あたりまでの低いエネルギーのβ線の透過が可能ですので、ガンマ線用の測定器ではできないことができてしまいます。これについては後の記事で書く予定です。逆に、それをガンマ線測定に使うためには、感度の関係で必ずβ線の遮蔽をする必要があります(β線の遮蔽は簡単です)。
GM管には非常に多くの種類がありますが、入手が容易でウクライナあたりから沢山出回っているのは旧ソ連製のもので、チェルノブイリ事故後に大量に製造されたようです。筆者はテスト用に主にブルガリアから購入しました。SI(CИ)で始まる名称の最後にG(Г)とつけられているのは用途がガンマ線用で、BG(БГ)とあるのはβ線とガンマ線用という意味です。
今回の連載記事には主に次のものを使う予定にしました。
となると、電圧供給部分についてはすみませんが変更を要します。なぜならSBM-20などの信号は強いので、これまでに示した回路(分圧して取り出す)でよいのですが、SI22Gの信号は弱いために検出もれが起きます。仕様ではアノード抵抗を10MΩ程度にして、10pF以下のコンデンサーで直接取り出す必要があります。
念のために上の写真の4種で取出しを測定しました。それぞれ複数本でためしました。SBM-20、SI-29BG、SI-180Gでは問題ありませんが、SI22Gでの信号取出しには問題がでます。これらについては、この連載で詳しく説明する予定です。
そこで、この際はどれにも対応するように、電圧供給部分を次の回路に改めることにしました。SBM-20専用と考えていた第1回の記事から変更となりすみませんが、今後の記述の為に気づいたこの時点で変更させていただくことにします。
この回路では、GM管のカソードがグラウンドレベルになるようにしています。グラウンドとカソードの間に抵抗を入れて信号を取り出す簡単な例も多々ありますが、インピーダンスが高い回路ですから、そのようにするとGM管を少し離して設置する時に周囲のノイズを拾ってしまいますから、こうして防ぎます。
次回は信号の取出し方について書くことにします。
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次の記事にArduino本体のプログラムを載せました。
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